多民族国家シンガポールで10年以上 コーチング に携わったプロから学ぶ、「部下の育成にはコーチングが必要」なワケ

本日はMaster Coach(コーチングの習得・実践研修プログラム)の創設者であるWan Chungさんに、多民族国家であるシンガポールで10年以上携わったコーチング経験から、マネージャーによる コーチング が日本企業の人材育成に必要と考える理由についてお話いただきました。

ビジネスにおけるコーチングとは
ビジネスにおいてコーチングとは、個々の社員が思い描いている目標を達成するために、マネージャーが共に伴走し、自発的な成長をサポートしていくためのコミュニケーションスキルやマネージメント手法です。

Wanさんがコーチングの活動をすることになったきっかけを教えてください。

私がコーチングに出会ったのは2010年に米国のコーチング団体が指導する9ヶ月間のプロフェッショナル・コーチング・プログラムに参加したことです。コーチングについては知ってはいたものの、職場で実践したことがなかった「聞く」「質問する」というスキルを学びました。そのプログラムで身につけた、「聞く」「質問する」というスキルを職場で実践したところ多くの気付きがありました。その一つが社員一人ひとりが素晴らしいアイディアを持っていて、私がサポートをすれば彼らの考えや目標を達成できるということです。また、他人が意見をした目標よりも、社員自身が出した提案を目標として設定するほうが、はるかに当事者意識が高くなることもわかりました。この経験から、コーチングの素晴らしさと重要性に気づき、様々な企業で広める活動をはじめました。

シンガポール人と日本の若手社員は仕事の価値観が似ている?!
仕事は「管理」されるものではなく「従事」するもの

シンガポール人の特徴を教えてください。

シンガポールは多民族国家として知られていますが、中国系・マレーシア系・インド系が人口の90%以上を締めており、同じアジア人で構成されています。そのため、シンガポール人も日本人と同じく「上司に敬意を払う」というアジア人特有のマインドを持っています。一方で、イギリスの植民地だったという歴史的背景や、国際貿易の拠点としての現在の状況から、シンガポール人には「個人の価値観」を大切にする西洋人的な側面もあります。

「シンガポール人が西洋人的側面とアジア人的側面をもっている」という点をもう少し具体的におしえてください。

日本を含む多くのアジア人から見ると、シンガポール人は「より西洋人的」にうつり、西洋人にとっては、シンガポール人が「よりアジア人的」にうつります。つまり「ちょうど中間的」な特徴をもっています。特に仕事に関して、自身の夢、権利、幸福を最大化することを最優先にキャリアビジョンを描く点は、西洋人の「個人の価値観」を重要視する側面が顕著にあらわれているといえるでしょう。一方でシンガポール人の組織や仕事関係者との調和を取りながら仕事をする姿勢や、面子を重んじる側面はアジア人的ですね。

組織の調和を意識しつつ、個人の価値観も貫くシンガポール人は、日本の若手社員の特徴にとても似ている気がするのですが。

まさにその通りですね!会社のために仕事をするのではなく、自身の価値観を最大化するために仕事をするという点は、多くの日本の若手社員が潜在的に持っているマインドであり、シンガポール人と共通していると考えます。上司の命令に服従することが美徳とされる考えは過去のものになりつつあります。日本の社員、特に若い労働力は、「Managed:管理」されることを望んでいません。 彼らは「Engaged:従事」したいと思っています。そういった彼らの価値観を尊重しなければ、新世代の人材を導き、組織をまとめていくことは難しいでしょう。

日本人の仕事に対する価値観の変化についてどう考えますか?

私は決して悪いことではないと思っています。むしろこれは日本が今後成長していくにあたって尊重していくべき変化だと思います。実際に、私の国シンガポールがここ数年で経済的に急成長を遂げたのも、シンガポール人が早くから、会社に管理されるのではなく、自ら仕事に従事するという自律的な考えを受け入れ、尊重してきたからだ考えます。

まずは、コーチングの基本的な考えがより多くの企業に浸透することが大事。

Wanさんの10年以上に渡るコーチング経験から、コーチングで最も大切な考え方はなんだと思いますか?

突き詰めれば次の二つだと思っています。

  1. すべての人の存在は価値あるものだと考えその人の中に挑戦や困難への解を見いだす力があると心から信じることです。
  2. 人の心に「安全を創り出す」ことです。人は安全だと感じると大きな自信と活力がみなぎり、
    最高の成果を生みだすことがでるからです。

コーチングが日本を含むアジア諸国で必要と考える理由を教えてください。

日本やアジア諸国の人々、特に若い労働力は、会社に「管理」されるのではなく、仕事に「従事」したいと思っています。 どのように従事するかの「所有者」は個々社員であり、会社や上司ではないということです。そういった考えをもつ社員が集まる企業の組織では、コーチングは、マネージャーがチームを率いる際に取り入れるべき最も効果的なリーダーシップの手法なのです。チームメンバの話を聞き、尋ね、サポートし、成長を促進するというコーチングは、社員を仕事の「所有者」に導きます。これは優れた組織を構築するために最も重要な要素です。

MasterCoachを開発した理由をおしえてください。

MasterCoachは「すべてのマネージャーが自信のあるコーチに」なることをコンセプトとした、 コーチング(1on1)の実践型研修プログラムです。私は、オーストラリアやニュージーランドを中心とするオセアニア諸国とアジア諸国の企業で10年以上コーチングを教えた経験から、社員をリードするマネージャが古い習慣や考え方を変えることがもっとも大切だと考えました。若い世代の仕事に対する姿勢が変化している中、マネージャーが変わらなければ、組織をまとめることのみならず、企業として成長しつづけることは難しいと考えたからです。

具体的には、マネージャーが部下に対する姿勢を変えることが重要だと考えました。
・「話す」ことから「尋ねる」ことへ
・ 従業員の「弱点をうめる」
ことからから「強みを強化する」ことへ
・「制御」
から「促進」
・「現状維持」
から「革新」
・「ティーチング」
中心から「コーチング」

このコーチングの基本姿勢を多くの企業のマネージャーが理解し、実践していただくために、シンプルさとわかりやすさにこだわったMasterCoachプログラムを開発しました。

「コーチングはそんなにシンプルにはいかない」と考える方もいると思いますが。

確かにコーチングは人を相手にするものですので、単純にいかない部分もあります。ですが、どんなに細分化したコーチング研修をマネージャーにおこなっても、研修後に現場で実践できなければ、意味がありません。実際、MasterCoach開発以前に、様々な企業のリーダーやマネージャーにコーチングを教えてきましたが、研修では気に入って共感してくれたのにも関わらず、その新しいスキルを職場で習慣化するにいたった方はほとんどありませんでした。まずはより多くのマネージャーにコーチングの基本姿勢を理解していただき、現場にもちかえって実践していくことが、よりよい組織づくりと企業の発展に結びつくと思っています。どのような背景をもったマネージャーでも現場で実践していただけるよう開発したのがMaster Coachです。

MasterCoachが日本の企業にも必要だと考えた理由を教えてください。

日本ではマネージャーによる「コーチング」という概念がまだ十分に浸透していないと考えます。まずはマネージャー層にコーチングの基本姿勢をみにつけてもらい、現場で実践して社内に浸透させることが重要だと考えます。
Master Coachプログラム研修は3つのシンプルなステップで構成されています。わかりやすい作りになっていますので、MasterCoachプログラムをお受けいただいたあとも、すぐに実務で実践し、習慣化できるよう構成されています。

ステップ1(Web研修)
 基本的なコーチングスキルを使って社員とコミュニケーションをを取り方に焦点を当てたWeb研修を行います。
ステップ2(実践型トレーニング)
 MasterCoach 3Dシステムとアプリの利用方法について、様々なワークを通しマネージャーをトレーニングします。
ステップ3(現場で実践し、レビュー)
 各マネージャーが実務ですぐに実践していただけるよう、MasterCoachを用いた課題を現場で実践し、レビューを行います。

終わりに(加藤)

ありがとうございます。今回はコーチングプログラム「MasterCoach」の創設者であるWanさんに、シンガポールと日本の人材を比較しながら、日本においてもコーチングが人材育成に有効な理由をお話いただきました。シンガポール人のほとんどがアジア人でありながら、日本とは異なった国の背景があったため、仕事は「管理される」のではなくではなく「従事する」という考えが早くからシンガポールに浸透したのですね。一人ひとりの強みや個性を活かした組織運営がこれからの日本においても必要だということが改めて理解できました。コーチングはとても複雑で、高度な理論を学ぶ必要があるイメージがありますが、「すべてのマネージャーが自信のあるコーチに」というMasterCoachのコンセプトやシンプルさは目を見張るものがありますね。コーチングを学んだことの無いマネージャーや、これからマネージャーを目指す若手社員にもぜひMasterCoachに触れていただき、「Engaged:従事」の組織運営を現場で実践して頂ければと思います。

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